後立山(長野/富山) 小スバリ岳(2740m)、スバリ岳(2752m)、針ノ木岳(2820.7m) 2022年7月2日  カウント:画像読み出し不能

所要時間  1:08 扇沢市営駐車場−−1:13 登山口−−1:35 車道を離れる−−2:15 大沢小屋−−2:38 雪渓に乗る(標高1800m付近)−−3:28 ルートミス 3:38−−3:58 ヤマクボ沢出合−−5:00 2670m鞍部−−5:17 小スバリ岳−−5:24 スバリ岳 5:29−−5:47 2670m鞍部 5:51−−6:14 針ノ木岳 6:49−−7:25 針ノ木峠−−8:02 夏道に乗る(標高1800m付近)−−8:23 大沢小屋−−8:59 車道−−9:03 水浴び 9:09−−9:19 登山口−−9:23 扇沢市営駐車場

場所長野県大町市/富山県中新川郡立山町
年月日2022年7月2日 日帰り
天候快晴。非常に暑かった!
山行種類残雪期の一般登山
交通手段マイカー
駐車場扇沢駅直下の有料駐車場より下に市営無料駐車場あり。ただしハイシーズンには早朝に満車になるので注意
登山道の有無あり
籔の有無藪漕ぎのレベルではないが、大沢小屋手前で笹が登山道にはみ出した区間があり、雨直後や朝露に濡れた時間に通過すると体に触れてびしょ濡れになるのでゴア必携
危険個所の有無雪山経験者なら無しと言えるが、夏山専門登山者にとっては針ノ木峠直下の急雪面、針ノ木峠〜針ノ木岳間の急雪面トラバースが滑落の危険あり。経験と装備の両方が揃わない場合は雪が溶けて夏道が完全に出てから登るべき
山頂の展望小スバリ岳、スバリ岳、針ノ木岳とも晴れれば大展望
GPSトラックログ
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コメント 一ヶ月前にも登った針ノ木岳へ。今回も往路でヤマクボ沢を登り、スバリ岳を往復して針ノ木岳に登り、針ノ木峠から雪渓を下って扇沢へ戻った。天気は最高だったがクソ暑く、夜中でも長袖シャツさえ着用不要なほど。高山植物はかなり咲き始めていたがピークはまだ先。

 未だ残雪が多く針ノ木峠付近の夏道は全く出ておらず雪渓を直接登る必要あり。針ノ木峠〜針ノ木岳間もまだ夏道は半分程度雪に埋もれて雪の急斜面をトラバースする必要あり。つい先日の26日には男性が死亡。トラバースで滑落したとみられている。また、私が登った前日には雪渓で滑落してビバークした2人パーティーがいて、救助に向かう県警2人とすれ違った。このルートは難易度が高いとは思わないが、雪の経験が浅かったり装備が貧弱な人にとっては命に関わる事故につながりかねない。今年は残雪が多いので雪の経験が少ない人はアルプスに入る前に十分に情報収集を行い、安全な山を選択するようにしたい




真夜中の扇沢市営無料駐車場 ゲート横から登山道へ入る
車道から登山道へ 水場(沢の源頭)
赤沢。まだ水量が多い 大沢小屋。今シーズンも営業休止か?
標高1800m付近で雪渓に乗る 午前4時頃に明るくなり始めライト不要に
ヤマクボ沢出合からヤマクボ沢に入る 午前4時の東の空
標高2400m付近。かなりの急傾斜 4時半過ぎに雲海から日の出
標高2500m付近。周囲が赤く染まる 周囲が赤いので影が青く見える
標高2550m付近 ショウジョウバカマ
標高2590m付近。雪が消えた地帯を進む 標高2620m付近
2670m鞍部。荷物をデポしてスバリ岳に向かう 2670m鞍部から見た針ノ木岳
2670m鞍部から見たスバリ岳方面 矮小なハクサンイチゲ
クモマスミレ ミヤマダイコンソウ
ミヤマキンポウゲ。今回最も多く見られた花 コメバツガザクラ
イワウメ まだ蕾のツガザクラ
イワカガミ。正確にはコイワカガミだろう 開花したツガザクラ
スバリ岳と小スバリ岳
登山道を離れて小スバリ岳山頂へ 小スバリ岳山頂
小スバリ岳山頂から見た360度パノラマ展望写真(クリックで拡大)
小スバリ岳から見たスバリ岳 スバリ岳への最後の登り
コマクサはまだ蕾だった スバリ岳山頂。正確な山頂は標識東の岩の上
スバリ岳山頂から見た360度パノラマ展望写真(クリックで拡大)
スバリ岳から見た後立山
スバリ岳から見た妙高山方面
スバリ岳から見た志賀高原方面。背の高い雲海が広がり奥日光方面は見えなかった
スバリ岳から見た針ノ木岳 スバリ岳から見た黒部湖
スバリ岳から見た五色ヶ原山荘 スバリ岳から見た白山
調べ切れず種類不明。かなり小さい花。ミヤマタネツケバナと同定 イワツメクサ
ミヤマシオガマ。葉っぱがニンジンのように細かく裂けている ヤマクボ沢
デポした荷物 コケモモ。開花しているものは少なかった
2670m鞍部から見上げる針ノ木岳 イワウメ
ガレた稜線を登る シコタンソウの蕾
苦労して調べた結果、ホソバアマナチシマアマナ ヤマクボ沢
針ノ木峠からの稜線にまだ人影はない 針ノ木岳山頂直下
ミヤマオダマキの蕾 イワオウギ。咲き始めはこの株だけ
イワベンケイ ミヤマシオガマ
イワツメクサ クモマスミレ
針ノ木岳山頂
針ノ木岳山頂から見た360度パノラマ展望写真(クリックで拡大)
針ノ木峠へ向かう。1ヵ月前よりかなり雪解けが進んだ イワカガミの群落
タケネヤハズハハコ ミツバオウレン。数は少なかった
標高2750m付近からトラバース開始。アイゼン装着+ピッケル 下ってきた斜面を見上げる
断続する夏道 最後のトラバース
直線的に斜めに下ってきた この雪田はノーアイゼンでOK
今年初のチングルマ もうすぐ針ノ木峠
テント場は雪に埋もれて無雪は1張のみ 針ノ木峠
針ノ木峠から針ノ木雪渓。まだ夏道は雪の下 針ノ木峠を見上げる。素晴らしい青空!
滑落してビバークした2人の一人らしい もう一人の遭難者らしい
ヤマクボ沢を見上げる 点々と登山者が登ってくるが真夏よりずっと少ない
暗闇でルートミスした沢 ノドからの下り
針の木小屋へ荷揚げの3人とすれ違った 標高1800mで夏道に乗る
夏道入口のシラネアオイ おそらくオオバキスミレ
カラマツソウ ニガナ。細かな種類は不明
シロバナニガナ タニウツギ。あちこちで咲いていた
オオバギボウシ まだ雪渓は続くが急斜面で夏道に取り付けない
アカモノっぽい 雪渓末端
ツマトリソウ ズダヤクシュ
ミヤマカタバミ ユキザサ
ニガイチゴ オオバミゾホオズキ
赤沢。真夏には水が枯れてしまう こちらは年中無休の水場
鳴沢。かろうじて流れがある キジムシロっぽい
オドリコソウ 車道近くにベニバナイチヤクソウ発見!
車道に合流 帰りがけに近くの沢へ水浴びに
真夏には枯れてしまうが今は流れがある 葉っぱからウマノアシガタっぽい
扇沢駅 登山口。まだ登山指導所は開設されていない
ゲート 駐車場は最上段のみ埋まっていた
無料駐車場。ほぼ満車だった


 まだ確定ではないが今年はまさかの6月中の梅雨明け。梅雨明け後は長野でも連日の猛暑日続出で週末も好天予報でアルプスの山の上でも暑そうな気配。そこで行先は長時間雪の上を歩ける針ノ木岳とした。1ヵ月前に登っているがまだ残雪が多く麓以外では花はほとんど見られなかったが、今回はぼちぼち咲き始めた頃だろう。

 残雪状況をネットで確認すると、まだ針ノ木峠〜針ノ木岳間は雪の急斜面のトラバースが必要とのこと。近日中にヤマクボ沢を登った記録が無いか探したら今週頭の記録を発見し、どうやらまだ使えそうだ。今回はヤマクボ沢を登ってスバリ岳に立ってから針ノ木岳に至り、針ノ木峠から下山することにした。蓮華岳も考えたが下山時刻が昼近くになると下界の猛暑で死にそうになると考えて、今回は蓮華岳は割愛して午前中の涼しい時間に下山してしまうことにした。残雪状況を考えると1ヶ月前と同じく10本爪アイゼンに軽ピッケルとした。

 金曜日は通院の関係で会社を早退したので、山への出発もいつもより早かったため扇沢到着は午後7時頃でまだ薄明るい時刻だった。さすがにこの時間では市営無料駐車場の大半は空きで、一番奥に近い場所に車を突っ込んだ。この時間の扇沢でも気温は+20℃もあり、エンジンを切って空調も止まると車の中は+30℃近くまで達するのでドアを半開けにして外気を入れる。まだ真っ暗ではなく室内のライトを点灯せずに済むので虫の進入は無かった。今シーズンの中で最も気温が高く、半袖半ズボンのままで寝ることができた。

 スバリ岳への到着時刻は日の出後の午前5時頃を想定して夜中0時過ぎに起床して、超早い朝飯を食って午前1時に出発。夜中はポツリポツリと車が上がってきたが、当然ながら遠方からの登山者だろう。彼らはこれから仮眠だがこちらはこれから行動開始だ。久しぶりに頭上は満天の星空で天気は予報通り問題なし。しかし朝から気温が高く出発時から半袖半ズボンの姿。このままでは虫に刺されるので肌の露出部分には虫よけを塗布する。予報では山頂での気温は最低で+10℃程度であり、私が到着する頃にはもっと上がるだろうと防寒装備は毛糸の帽子、薄手の手袋(軍手)、ネックウォーマー、ゴアと長袖シャツ、ウィンドブレーカのみとしたが、実際に使ったのは雪渓上での手袋と毛糸の帽子にウィンドブレーカだけだった。

 この時期は冬道は使えないので素直に夏道を上がる。もう草が延びて登山道にはみ出していて、はみ出した笹が僅かに夜露に濡れてズボンを濡らすが、この気温では行動していればすぐに乾くだろう。登山道脇にはオドリコソウ、オオバミゾホオズキ、ズダヤクシュ、ツマトリソウなどが見られたが、往路は真っ暗でフラッシュ撮影ではきれいな写真にならないので帰りに撮影することにする。いつもは涸れている鳴沢は僅かに流れがあり、同じくいつもは涸れている赤沢は豊富な流れがあった。その中間にある沢の源頭はいつもと同じ水量で、ここで水を補給した。大沢小屋はがっちりと閉まったままで、今年も営業休止かも知れない。

 どこで雪渓に乗れるかは現場に到着しないと分からないが、一ヶ月前に乗れた場所に下る分岐付近では強い水音がしていて雪があるとは思えないので通過。一度高度を上げて開けた左岸をトラバースするようになると眼下に雪渓が現れたが、斜面が急すぎて雪渓に下ることはできない。安全に雪渓に達する場所まで進んで標高1800m付近で雪渓に乗ることができた。ここでアイゼンを装着。

 雪渓の雪は固く全く沈まないのでスパッツは装着せずそのまま登り始める。雪渓の中だけは冷たい風が吹き降りて気持ちいいが、長時間吹かれていると寒くなってきたので軍手をして毛糸の帽子を被って腕カバーをして薄手のウィンドブレーカを羽織った。まだ真っ暗な時間帯であり、前後の雪渓に光は皆無だ。

 往路はヤマクボ沢を考えていたが心配事が一つ。残雪状況である。私が見た記録は週頭の月曜日のもので、あれから連日の猛暑で雪解けが猛烈な早さで進んだだろう。雪が途切れてハイマツの藪に突っ込むのは避けたいところ。しかしまだ真っ暗な時刻で周囲の様子は全く見えないので、ヤマクボ沢上部の様子は知りようがない。その前に他の沢との分岐をヤマクボ沢出合と誤認しないかの方が心配だった。明るくなって谷の先の様子が分かれば一度歩いたことがあるヤマクボ沢かどうかの判断は容易であるが、ライトの光が届く狭い範囲だけの光景で正しい判断ができるかどうか。

 雪渓の傾斜が緩む「ノド」と呼ばれる場所が標高2100m付近で、ここで右に延びる雪渓をヤマクボ沢と思って登り始めたが、まだ周囲は真っ暗で先の様子は見えない。しかし少し進んで傾斜が急になり、さらには薄明るくなり始めて少しだけ先の様子が見えるようになると、上部は雪渓が消えているように見えた。そしてその様子は1ヵ月前のヤマクボ沢のうねり方や傾斜とは全く違うように思えた。100%の自信があるわけではないがここはヤマクボ沢ではないと判断して本流に戻った。もしここがヤマクボ沢だったとしても往路は針ノ木峠経由で登り、帰りにヤマクボ沢を下ってもいいだろう。

 本流をさらに上がると標高2250m付近で今度こそ間違いなくヤマクボ沢分岐と分かる雪渓の分岐が登場。既に周囲は十分に明るく針ノ木岳山頂まで見通すことが可能で、右に分岐する雪渓は見覚えのある地形で沢のうねり方もヤマクボ沢に間違いない。ただし、沢が曲がって見えない区間で雪がつながっているかどうかが分からない。ただしその距離は短そうであり、これなら藪漕ぎでも許容範囲と判断して突っ込むことに。それより上部は雪がつながっているが、一ヶ月前に登ったルートは雪が消えてハイマツが出ているので、今回は右側の雪がつながったルートを登ることになる。

 相変わらずヤマクボ沢は地形図で見るよりも傾斜がきついが、前回と違って今回は気温が高く雪がガチガチに凍っているなんてことはないので、前回よりも安心して登ることができた。しかしこの高温が続くと猛烈な勢いで雪解けが進んでしまうだろう。まあ、7月にヤマクボ沢が使える方が珍しいと思えるが。

 東の空に雲海から日が昇ると周囲はモルゲンロートで真赤に染まる。雪面も赤くなり自分の陰が青く見えたのにはびっくり。岩が作る影も青で、まるで岩陰に青いザックがデポされているように見えた。

 標高2600m付近からは残雪は谷の中央よりスバリ岳側の急斜面にしか残っていないので、谷底に近い雪が無い草と低灌木帯を突っ切った。まだ葉っぱが出ていないので歩きやすいが、これらが青々となると歩きにくくなるだろう。まあ、その頃には谷の雪が消えてヤマクボ沢は使えなくなっているだろうけど。

 最後に短い雪渓を登れば針ノ木岳とスバリ岳間の2670m鞍部(ヤマクボ沢のコル)に飛び出す。まだ周囲はモルゲンロートで赤く染まり、相変わらず影は青く見えて岩が作る影に青いザックがデポしてあるような錯覚が。これを見てはっと思い付いた。先にスバリ岳を往復するが、ここでザックをデポして軽装で歩けばいいと。冬場と違って気温は高く防寒装備は不要だし、スバリ岳までなら雪装備も不要だ。ウェストポーチにウィンドブレーカ、手袋、毛糸の帽子を突っ込んで出発。

 前回はまだ花は全く見られなかったが、今回は花盛りとまではいかないがかなり咲き始めていた。最も多く見られるのはミヤマキンバイ。次に多いのは矮小なハクサンイチゲ、コメバツガザクラ、イワウメ。イワカガミ(コイワカガミ)、ツガザクラ、クモマスミレで、おおよそ同程度。数株しか見られなかったのはミヤマシオガマ。タカネシオガマと見分けが難しいが、人参のように葉っぱが細かく裂けているのがポイントだ。鞍部からスバリ岳まで岩稜帯が続くのでお花畑のような高密度に花がまとまっている場所は無いが、あちらこちらに点々と花を付けている。

 最初のピークが小スバリ岳だが登山道は西側直下を巻いてしまうので、岩が重なった短い斜面を登って山頂に立つ。幸いにしてハイマツ藪は無く簡単に山頂に立てる。ここに最初に登ったのは2009年6月20日で、今と同じくまだ残雪が多い時期に登っている。当時は高山植物には全く興味が無かったので記録には花は全く登場せず、今となってはもったいない。山頂は岩に覆われて花は見られないが立ち木も皆無で360度の大展望。まあ、アルプスのピークなので当然ではあるが。天気はいいのだが残念ながら空気の透明度はイマイチで、八ヶ岳は霞んで見えるが富士山は全く分からず、南アルプスはかろうじて輪郭が見えるかどうかで写真では判別できないだろう。東の空は背の高い雲海で、その上に突き出しているのは北から頚城山塊、高妻山、黒姫山、飯縄山、岩菅山、横手山〜草津白根山付近、四阿山、浅間山であった。残念ながら尾瀬、奥日光の山々は見えなかった。近場である北アルプスの峰々はすっきりと見えていた。

 次はスバリ岳。僅かに下って最後の登り返しではコマクサの蕾あり。開花は来週かな。スバリ岳山頂も360度の大展望で、こちらは小スバリ岳と比較して北側の展望が開ける。立山、剱岳周辺の黒部別山、仙人山、坊主山などの藪山が懐かしい。スバリ岳山頂では名前の分からない白い小さな花を発見した。これは先日の常念岳でも見たものだが、ネットで調べても種類を同定できなかった。今回も帰宅後にしつこくネットで調べたが、該当しそうな花を特定できなかった。画像検索が実用的になると助かるのだが。

 スバリ岳で写真撮影しているとデジカメが突然不調に。電源を入れると「レンズ制御エラー」が表示されてシャッターが切れない状態になる。ただし何度も電源を入切すると、5,6回に1回程度の確率で正常起動して撮影可能となるが、ズーム操作をするとエラーが出て撮影不能になった。今使っているデジカメは7,8年前のものでもう寿命なので仕方ない。もっと新しいパナソニックのデジカメがあるのだが、これは2年くらい前にレンズ駆動系が故障して使えない状態になり、古いデジカメを引っ張り出してこれまで使っていたのだ。昨今は半導体不足でデジカメの価格が高騰しており、新品を購入するよりもパナソニックのデジカメを修理する方が安上がりだろう。帰ったら修理依頼を出すことにするが、来週末には修理は間に合わないだろう。今のデジカメをだましだまし使うしかないが、あと数週間持ってくれるといいのだが。

 スバリ岳から針ノ木岳方面は太陽を正面方向に浴びながらとなるので、顔に日焼け止めを塗った。日焼け止めを使うのは大型連休以来で、これまで毎週アルプスに登っているとはいえ天気がイマイチだったり寒くてフェイスマスク着用だったりと日焼けの心配が無かった。梅雨明けしてやっと夏らしくなったということだろう。

 往路を戻ってヤマクボ沢のコルでザックを回収、ここからはさらに日焼け防止で麦わら帽子を被った。日が高くなってきたので効果が期待できる。針ノ木岳に向けてガレ場を急登。こちらも一ヶ月前同様にルート上に雪は皆無。ただし今回は花は多い。スバリ岳方面で見た花の他に稲のような単子葉で1株に一輪だけ咲いたミヤマカタバミに似た形状の花をたくさん見かけた。他の山では見たことがないが、おそらくこの花がある山でこの花の開花シーズンに登っていないだけなのだろう。全く名前が分からなかったが、ネットでしつこく調べてチシマアマナらしいと判明した。最初はホソバアマナかと思ったがこちらは1株で1〜6個の花を付けるとのことで、今回見た花とは花の付き方が異なる。

 針ノ木岳直下に達すると小規模ながらお花畑が登場。花のピークはまだであるがたくさんの花が咲き始めている。相変わらずミヤマキンバイが主役であるが、これまで見てきた花の他にミヤマオダマキ(蕾)、イワベンケイ、イワオウギ(蕾)、ミヤマシオガマ、クモマスミレの群落が見られた。岩っぽい山頂部にはイワツメクサも。

 お花畑を登りきると針ノ木岳山頂。前回は冷たい強風で真冬の寒さだったが、今回はやや風はあるがウィンドブレーカだけで適温を保てるような気候だった。気温は+10℃くらいあると思う。ここまで登れば南側の展望を邪魔するピークは無く、槍穂や常念山脈を見通せる。相変わらず南アルプスは霞んでほぼ見えずだが、真夏の気圧配置なので仕方ないだろう。

 意外にも山頂には大ザックの男性が先着していた。この時刻に山頂にいるということは当然ながら針ノ木峠で幕営したものと思われる。男性はスバリ岳方面へと下っていったので、少なくとも種池山荘まで縦走するのだろう。種池山荘は今週末から営業を開始し、それに伴って柏原新道の残雪箇所は雪切りしてノーアイゼンで通行可能と出ていたので、あちらも登山者が急増するだろう。ちなみに下山後に柏原新道登山口を車で通過したら駐車場は満車状態であった。

 この男性の後はしばらく登山者の姿は無く、山頂から針ノ木峠へ続くルートを見るが雪の上を動く影はまだ皆無。今日の天候なら少なからず登ってくる人がいるはずだが、この時間帯にここまで登ってくるには私のように夜中に登り始めるか、トレラン並みの猛烈なスピードで上がってくるしかないが、針ノ木雪渓は後半は急だし針ノ木峠〜針ノ木岳間の急雪面のトラバースもトレランの雪装備無しでは突破は無理だろう。

 軽く飯を食って十分に展望を楽しんで下山開始。今回は山の上も暑いが下界はもっと暑いはずで、気温がさらに上がる前に早めに下山することにして今回は蓮華岳は割愛することに。コマクサもまだだろうし。

 一ヶ月前は山頂直下からアイゼンが必要な状況だったが、さすがに今はしばらくは雪は無く夏道が出ていた。しかし山頂付近以外はまだ花は皆無。標高2750m付近から夏道が稜線上から北斜面に移る箇所で残雪が登場。ここでアイゼンを装着してピッケルを手にする。針ノ木岳山頂で出会った男性の足跡が残っているが、前回と違って明瞭なトレースは無くどこを歩いても変わらない。男性の足跡はあまり参考にせず。下に見えている夏道が出た部分に向けて適当に下った。傾斜はそれなりにあるが雪質が適度でアイゼンは効くしピッケルも十分に効く深さまで刺さったので、一ヶ月前より安心して歩けた。夏道は断続的でその間は直線的につながっているとは限らなかったが、雪が消えて道が無い場所は短いザレた斜面でハイマツ藪に突っ込むことはなかった。最後の登り気味のトラバースをこなして小尾根を越えるとまだ残雪はあるが傾斜は緩く、もうアイゼンは不要だった。その残雪を過ぎれば針ノ木峠まで夏道が出ていた。この付近は真夏はお花畑となるので多少は花が見られるかと思ったら全く無かった。花が登場したのは針ノ木峠付近のチングルマだけであった。

 もう7月なので雪渓の針ノ木峠付近だけは夏道が出ているかと思ったが、ほぼ全面が残雪に覆われて夏道は全く使えず、一ヶ月前同様に峠まで雪渓を登る必要があった。雪渓を見下ろすと間もなく峠に到着する登山者2名の姿あり。本日登ってきた登山者の先頭かもしれない(蓮華岳方面に行った人がいたかもしれないので確定ではない)。

 再びアイゼンを装着してピッケル片手に雪渓を下っていく。そこそこの傾斜があるので今使っている軽量の10本爪アイゼンでは爪が短くグリップが充分とは言いがたく、めいっぱいグリップが効くように横向きに下ったりと工夫を凝らす。まあ、ここなら例え滑落してもピッケルで止まりそうだし、谷には大きな落石はまだ登場していないので危機感は少ない。

 ポツリポツリと上がってくる登山者の一部とは立ち話したが、その中で昨日雪渓を滑落してビバークした人がいたとの話を聞いた。チェーンスパイクでピッケルではなく長い棒の先に鎌のようなものを付けたピッケルもどき?を使っていたらしい。この傾斜では雪の固さによってはチェーンスパイクは効果は期待できないだろう。おそらく雪上歩行に慣れていない人で、ネット等での事前情報収集もさほどやっていなかったのだろう。もしやっていたとしても雪の経験が浅ければ、他人の成功体験を読んだだけでは雪の未経験者でも簡単に登れるかのように誤解するかもしれない。

 そろそろヤマクボ沢出合というところで、長い棒を持ってチェーンスパイクの年配の男性が上がってくるのとすれ違った。遭難者の話に合致するが歩きっぷりは普通で元気そうであり、遭難したようには見えなかった。しかし私がさらに下ったところで男性より僅かに先に登っていた2人組に対して「置いてある荷物は自分のものだ」と言っていたので、滑落時に木に引っかかった荷物を取りに上がったのかもしれない。そしてヤマクボ沢出合では登山者らしからぬ昔ながらの三角笠を被った白い衣装の人物が岩陰に座っていた。遠めに見ただけなので正確な人物像は分からなかったが、ぱっと見では若い男性のように思えた。でも実際は女性だったらしい(遭難救助に向かったすれ違った県警の話から)。おそらくこの人が滑落遭難のもう一人だと思われたが、遠目に見た感じでは異常は感じられず、普通の休憩中の登山者とは区別がつかなかった。

 この後も点々と登山者とすれ違う。真夏のシーズンよりは少ないが数10人くらいいたと思う。中には既にかなりお疲れの人も。雪渓の上は冷えた風が吹き下ろして気持ちいいが、それでも稜線よりは風が弱く下りでも汗が噴き出してくる。往路でヤマクボ沢と誤認して登った雪渓は帰りにはっきりと確認できたが、それなりに顕著な雪渓だった。でもこれだけ周囲が見えればヤマクボ沢ではないと簡単に判別できる。次回以降はもう真っ暗でも間違えることは無いだろう。

 「ノド」を通過して一時的に傾斜が増すが針ノ木峠直下よりは傾斜は緩く、もうピッケルの出番は無いのでザックの横に括り付ける。登ってくる登山者の中に3名ほど背負子で段ボール箱を背負った姿を発見。おそらく針ノ木小屋関係者で小屋明けのために荷上げしているのだろう。ご苦労様。

 雪渓の両岸の傾斜が緩くなってからは花が咲いていないか探しながら下ったが、左岸にニッコウキスゲらしきオレンジ色の花が見られた程度で、まだ花はほとんど無かった。花が登場するのは雪渓から夏道に上がるポイントで、針ノ木雪渓では初めてシラネアオイを見ることができた。この花は梅雨の間に咲く花なので梅雨明け後はかなり標高が高い場所でないと見ることができない。同じ場所にオオバキスミレが咲いていた。

 往路で雪渓に出た場所で夏道に上がってからは花が増え、カラマツソウ、ニガナ、シロバナニガナ、オオバギボウシ(蕾)、タニウツギなどがあった。タニウツギは車道までの間で多数見られ今が盛りだった。

 今回は標高1800m付近で雪渓と夏道が切り替わるが、往路は真っ暗でもっと下の方で雪渓に乗れたのではないかと下りながら考えていたが、実際に帰りに歩いてみると標高1800mよりも下までまだ雪渓が続いていたが、その区間は夏道のある左岸は傾斜がきつくて安全に雪渓に下れる場所は皆無。結果的に今回のルートが正解であった。今後は雪解けが進むに従って雪渓に乗るポイントは徐々に高度を上げていく。

 樹林帯に入ると花が増えてくる。ただし高密度ではなくポツリポツリと散在しているので見落としやすいが。今回はアカモノ(ちょっと自信なし)、ツマトリソウ、ズダヤクシュ、ミヤマカタバミ、ユキザサ、ニガイチゴ、オオバミゾホオズキ、キジムシロ(ちょっと自信なし)、オドリコソウ、ベニバナイチヤクソウが見られた。特にベニバナイチヤクソウは一ヶ月前は蕾だったが今回は逆に花の終わりギリギリの時期で、花を見ることができてラッキー! 林道近くの標高が低い場所に群生していた。

 車道まで下りるとさらに気温が上がって汗が吹き出し、今シーズン初めて水浴びすることに。車道に交差するように沢が流れており、その一本に下って濡れタオルで全身の汗を拭ってすっきりした。今回使った沢は夏場以降は水が枯れているのだが、この時期はまだ冷たい雪解け水が流れていた。濡れタオルを首に巻いて首の血管を冷やしつつ扇で扇いで強制風冷。これが私の夏山スタイルだ。

 登山口のゲート横にはまだ登山指導所のテントは設置されていないが、今年は梅雨明けが早かったのでそろそろ設置されるかも。扇沢の有料駐車場は最上段が埋まっているだけでまだまだガラガラ。観光シーズンは学校が夏休みに入ってからだろう。でも市営無料駐車場は相変わらずほぼ満車で1,2台の空きスペースがあるだけだった。ただし、雪渓ですれ違った人数からして大半は観光客の車だろう。

 時刻は9時半ちょっと前であり、これから出発する登山者の姿は無いし駐車場に下りてくる登山者の姿も無い静かな時間帯。車の温度計を見ると既に+20℃まで上がっていて、標高1400m近い扇沢でこれでは今日も下界はクソ暑さが厳しいだろう。車に乗り込んで出発し、柏原新道登山口の駐車場を見ると満車で、長いスノーシェッドを下ったところにある駐車スペースも埋まっていた。


 帰宅後に今回出会った(と思われる)遭難者のことが出ていないかとネットで検索してみたが、死亡事故にならないと世の中には報道されないようで見つけることはできなかった。しかしこの時期の針ノ木岳は滑落が多いようで、私が登った日にも事故にはならなかったが針ノ木峠〜針ノ木岳間のトラバースで滑落した人が複数人発生したようだ。私の感覚では装備、経験がしっかりしていればそう簡単に滑落するような場所とは思えないので、おそらくは本格的に雪山をやっていない人が落ちているのだと思われる。アルプス級の山は無雪期で天候が良ければ経験が浅い人でも体力さえあれば登ることが可能であるが、岩や雪は技術が必要である。計画している山の最新情報を複数収集して、今の自分の実力でリスクは無いか十分に検討して欲しい。

 

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